はじめに
ラグビーリーグワン2024-25シーズンのPoM(Player of the Match)データを整理してみたところ、チームのアタックスタイルや選手の個性が見えてくるような面白い傾向があったので紹介したいと思います。
1. PoMを3回獲得した選手たち
今シーズン、PoMを3回獲得した選手は以下の6名。どの選手もチームの中心であり、勝利に直結するプレーを連発していた印象です。
選手名 | 所属 | ポジション | 備考 |
---|---|---|---|
北村俊太郎 | 静岡ブルーレヴズ | SH | SHで唯一トライ数10超え、得点力◎ |
バーナード・フォーリー | クボタスピアーズ | SO | 第一節の勝ち越しDG, 得点6位 |
山沢京平 | 埼玉ワイルドナイツ | SO | 今季得点王 |
彦坂佳克 | トヨタヴェルブリッツ | HO | HOながらトライ数14位 |
松永拓朗 | ブレイブルーパス東京 | FB | 得点ランキング2位 |
リッチー・モウンガ | ブレイブルーパス東京 | SO | トライ・得点・総合貢献で上位多数 |
→ 全員が得点か試合を決めるプレーに大きく関与しており、PoMと得点貢献は密接に関係していることが数値からもわかります。
2. PoMから見た上位チームの戦い方
今シーズンのPoM(Player of the Match)をポジショングループごとに集計し、さらに各チームのポジショングループの選手数で正規化したデータから、チームごとの傾向が見えてきました。特に上位チーム(ブレイブルーパス東京、埼玉ワイルドナイツ、クボタスピアーズ) については、PoM受賞選手の分布からチームカラーが如実に表れており、非常に興味深い結果となっています。
🏆 BL東京 & 埼玉ワイルドナイツ:勝つべくして勝った2強
チーム | BK | Half | FW |
---|---|---|---|
BL東京 | 1.40 | 1.50 | 0.62 |
埼玉WK | 1.40 | 1.50 | 0.50 |
両チームとも、BK・Half・FWの各グループからバランスよくPoMが出ていることが分かります。
※ FW: PR,HO,LO,FL,No8.
※ Half: SH,SO
※ BK: CTB, WTB, FB
このバランスの良さは、単にスター選手がいるというだけではなく、各ポジションがしっかり機能し、試合の流れを掴み切っていることの表れでもあります。特定のポジションに依存せず、総合力で勝ちきるという印象を強く受けるチームです。
🥉 クボタスピアーズ:FWとResの爆発力
ポジショングループ | PoM per 人数 |
---|---|
BK | 1.00 |
Half | 1.50 |
FW | 0.62 |
Res(リザーブ) | +2名 |
クボタスピアーズは、FWからのPoM数が全チーム最多。これは「スピアーズ=FWのチーム」という印象にぴったりの結果で、セットプレーやブレイクダウンでの強さが際立っていたことを裏付けています。
また、PoMをリザーブの選手が受賞するケースも複数あり、後半の逆転劇や、交代選手のインパクトが試合を決定づけた場面が多かったと読み取れます。
BL東京や埼玉WKに比べるとやや偏りはありますが、試合展開の中で「爆発力」を発揮できるチームカラーがはっきりと反映されています。
🧭 中位チームの特色:東京サントリーサンゴリアス & 静岡ブルーレヴズ
チーム | BK | Half | FW |
---|---|---|---|
東京SG | 0.40 | 2.00 | 0.38 |
静岡BR | 1.00 | 2.00 | 0.38 |
両チームに共通しているのが、「ハーフ団(SH/SO)」が牽引役となっている点です。
- 東京SGでは、SHとSOがそれぞれ2回ずつPoMを受賞。
- 静岡BRでは、SHが単独で3回のPoM受賞という突出した記録を残しています。
このように、ゲームコントロールを担うハーフの出来がチームの勝敗に直結していたと考えられます。特に静岡BRのSHは、自身でトライを狙いにいくアグレッシブさも特徴的でした。
📉 PoM数が少ないチームの傾向:横浜イーグルスの例
ポジショングループ | PoM per 人数 |
---|---|
BK | 0.80 |
Half | 0.50 |
FW | 0.12 |
PoMの受賞回数が少ないチームでは傾向の抽出が難しいですが、横浜イーグルスのBK偏重はやや特徴的です。
内訳としては、
- CTB:3回
- WTB:1回
と、BK内でもCTBが中心となっています。これは「外側でのフィニッシュ」というよりも、中盤での勝負=個の突破力で局面を打開するパターンが多かったと考えられます。例えば、クリエルのようなワンショットで状況を変えられる選手の存在感が際立っていたのではないでしょうか。
このように、PoMの分布から各チームのスタイルや強みが浮かび上がってくるのは非常に面白く、試合を観戦する際の新たな視点にもなりそうです。
3. 記憶に焼きついた魂のPoM
リーグワンの試合では、ただ上手い・強いだけではなく、「その瞬間にすべてを賭けたプレー」で試合を決定づける選手たちがいます。ここでは、今シーズンの中でも特に観る者の心を揺さぶったPoM受賞シーンを2つ紹介します。どちらも、その瞬間に立ち会った観客として記憶に深く刻まれた、まさに“魂のプレー”です。
🧊 バーナード・フォーリー(クボタスピアーズ)
開幕戦からいきなり劇的な試合となったのが、フォーリーの**後半43分の逆転ドロップゴール(DG)**でPoMを獲得した一戦。
- 試合終了のホーンが鳴った後、
- スコアは同点、
- そして最後の攻撃。
そんな状況で、フォーリーは迷わずDGを選択。観客が息を飲む中、右足から放たれたボールは美しい弧を描いてポールの間を抜け、クボタスピアーズが劇的な勝利を掴みました。
しかもこの日のフォーリーは、
- コンバージョンキック5本中4本失敗というまさかの不調、
- しかも最初の4本をすべて外しており、
- 後半35分のトライ後にようやく1本決めて同点に追いついたという状況。
つまり、信頼と不安が入り混じる中でのDGチャレンジだったのです。
それだけに、ボールがポールを抜けた瞬間の秩父宮ラグビー場のボルテージは、筆舌に尽くしがたいものがありました。観客が総立ちになり、ラグビーが持つ“瞬間のドラマ”をまざまざと見せつけられた開幕戦でした。
⚡ 山田響(クボタスピアーズ)
もうひとつ忘れられないのが、第17節、埼玉ワイルドナイツとの大一番での山田響のプレー。
- 試合は終盤、後半40分。
- クボタが追いかける展開。
- 誰もが「もう時間がない」と思っていたその瞬間。
山田がパスを読み切ってインターセプト!
そのまま相手DFの猛追を見事にかわして、同点トライを決めて試合を引き分けに持ち込みました。
このトライによって、クボタは勝ち点を確保し、最終節を前に埼玉WKと勝ち点で並ぶという大混戦に持ち込んだのです。
この試合を現地で観戦していた人なら、あの瞬間の“空気が一変する感覚”を忘れられないはずです。ちなみに私はワイルドナイツファンとして観戦しており、あの山田のインターセプトには周りのワイルドナイツファンたちと共に「止めろぉー!!」と全力で叫びました(悔しすぎる!!)。
でも同時に、この試合が今季リーグの中でも最もエモーショナルな瞬間のひとつだったことは間違いありません。
ラグビーのPoMには、単なる好成績以上の“物語”があります。
それは、「極限の状況で何を決断し、どう動いたか」。
たった一つのプレーが、チームの運命を変え、観客の心を揺さぶる。
そんな瞬間が、ラグビーにはたくさん詰まっているのです。
4. SHに注目:PoMを取ったのはこの3人だけ
PoMは基本的に「目立つプレー」が評価されやすいため、SHのように黒子役が多いポジションは受賞が少なめです。
今シーズン、SHでPoMを獲得したのは以下の3名だけでした。
選手名 | チーム | 回数 | 特徴 |
---|---|---|---|
北村俊太郎 | 静岡BR | 3回 | トライ量産、アタック型SH |
流大 | 東京SG | 2回 | ゲームコントロールの代表格 |
TJ・ペレナラ | BR東京 | 1回 | パワーとリーダーシップ、世界クラスの存在感 |
特にTJ・ペレナラは、All Blacksでもお馴染みの世界的SH。今年からリーグワンに参戦している「みんな大好きペレナラさん」は、SHとしてはリーグワンでは明らかに抜けたフィジカル、そしてフィールド全体を見渡す広い視野で、「ペレナラ劇場」ともいえるプレーを随所に見せてくれました。トライをサポートする素晴らしいキックパスなど、早速日本でも素晴らしいプレイでファンを魅了してましたね🏉
おわりに:PoMを通して見るラグビーの面白さ
PoMというシンプルな指標でも、
- チームのアタックスタイル
- 選手の個性と役割
- 観る側が「どこに価値を感じているか」
などが見えてくるのはとても面白いです。
今後は複数年の比較や、ポジション別の推移、さらには「出場時間あたりのPoM率」など、より深く掘っていくことで、また違った傾向も見えてくるかもしれません。
引き続き、試合を観るのと同じくらい、こうしたデータの観察も楽しんでいきたいと思います。